◆概要
【執筆動機】
「人々が率直に話せる状況を作ることが、激しく変化し続ける時代における組織とチームの未来を作るために重要な仕事」(p.4)だが、現実には「率直に意見を言うこと、質問をすることが、状況や立場にとっては、とても難しい」(p.4)ことにノイズを感じた。加えて「危機の時代にこそ心理的安全性が必要」(p.6)であるため。
【想定読者】
マネジメント層(役員、事業部長、プロジェクトマネージャー、チームリーダーなど)
【主張】
心理的安全性によって、効果的な組織、チームが作れる。(p.4)
◆本文抜粋
①チームの心理的安全性
【エドモンドソンの定義】「チームの心理的安全性とは、チームの中で対人関係におけるリスクを取っても大丈夫だ、と言うチームメンバーに共有される信念のことを」(p.22)
【心理的「非」安全性】
「良かれと思って行動しても、罰を受けるかもしれない」(p.23)
4つのカテゴリ→「無知」「無能」「邪魔」「否定的」(p.25)だと思われたくない。
心理的「非」安全な職場では、いつの間にかメンバーは必要なことでも行動しなくなってしまう(p.26)
最も重要な心理的安全性確保のメリットは「チームの学習」が促進されること(p.28)
【健全な対立、ヘルシーコンフリクト】心理的安全性が担保されている状況下では、タスクのコンフリクトだけは業績にプラスの影響がある(p.44)
日本の組織では、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4つの因子がある時、心理的安全性が感じられる(p.49)
心理的安全性に変革をもたらすには「3段階」があります。(p.58) →「構造、環境」「関係性、カルチャー」「行動、スキル」
【構造、環境】→「パワーバランス」「組織構造」「ビジネスプロセス」「業態上の制約」
組織に心理的安全性をもたらすリーダーはあなたです(p.70)
②リーダーシップとしての心理的柔軟性
【リーダーシップスタイル】(p.77)
トランザクショナル(取引型)、トランスフォーメーションナル(変革型)、サーヴァント、オーセンティックなど
心理的柔軟なリーダーシップとは、状況に合わせて、場面ごとに、より役に立つリーダーシップを切り替え使い分ける柔軟性を持つ(p.81)
memo.何も言ってないのと同じ。結局リーダーシップが大事だよねというよくある話にしてもややひどい部類。この先、読む気を失わせる文章。
「自信それ自体は存在しない。いくつかの行動パターンに、自信というラベルを貼ってているだけだ」と捉えます。(p.88)
変えられるものと変えられないものをマインドフルに見分ける(p.98)
「配られたカードで戦うしかない。それが何であれ」「それでも人生にイエスと言う」(p.116)
memo.抽象度が高いどころのはなしではない。リーダーシップ論→精神論→瞑想(迷走?)のコンボ。心理的安全性の話との関連を説得するプロセスが十分でない。
③行動分析でつくる心理的安全性
行動は「きっかけ」と「見返り」で制御されている(p.158)
無意識のきっかけで行動が制御されている(p.166)
叱責など厳しい指導をせずに、しっかりとスキル、品質を上げる育成方法が、「プロンプト」です。(p.223)
④言葉で高める心理的安全性
「感謝を伝えましょう」「普段から気にかける」「メンバーの立場になる」など一般論に。抜粋する内容はないと判断
◆【追記】エイミー・C・エドモンドソン(2021)『恐れのない組織「心理的安全性」が学習、イノベーション・成長をもたらす』英治出版。
【はじめに】価値創造にはまず、あなたの持つ才能を最も効果的に活用する必要がある。(p.11)
【執筆動機・目的】
知識とイノベーションなくして競争上の優位を得られない事は今や誰もが知っている。(中略)本書の目的は、そうした成長・成功を手伝うこと。そして知識集約型組織がより効果的に活動できるようになるための新たな考え方と方法を伝えることだ。(p.12)
【問題意識】(p.12)
①彼らの知識が必要とされていることを、彼ら自身が認識できていない
②知識労働が真価を発揮するためには、人々が知識を共有したいと思える職場が必要
③今日の職場で、人々が本当の考えを言う事はほとんどない
【有能・ミス】どうも、有能なチームほど、そうではないチームに比べてミスを多くしているように思われる。(p.33)
【心理的安全性の誤解】
感じ良く振る舞うこととは関係がない、性格の問題ではない、信頼の別名ではない、目標達成基準を下げることではない(pp.41-45)
【マネジメントと心理的安全性】
高い基準の設定と良いマネージメントを、多くのマネージャーが混同している。(p.105)
【弊害】心理的安全性が欠けていると、うまくいっていると言う錯覚が生まれ、やがてビジネス上の重大な失敗を引き起こしてしまう。(p.106)
【効用】不十分な点に関して早くに情報を出すと、将来起きるかもしれない大失敗の規模と影響、およそ常に小さくできる。(p.106)
【ジグザグ進む】組織で心理的安全性を作り始めると、既知のことも多いが、未知のことにもたくさんぶつかる。(中略)ヨットは目標に対して45度の角度で前進するが、目標に近づくと進行方向を逆の45度に変え、「ジグザグに進む」のである。(中略)心理的安全性をつくる事は、大小様々な調整を絶えず繰り返しながら、最終的に前進となるプロセスである。ヨットが風上へ向かってジグザグに進むのと同様、あなたは、望み通りの方向へ進むことも風向きがいつ変わるかを知ることも決してできない中、右へ左へ適宜方向を変えつつ、前へ進んで行かなければならないのである。(pp.259-260)
◆参考文献・引用元
石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』日本能率協会マネジメントセンター。
エイミー・C・エドモンドソン(2021)『恐れのない組織「心理的安全性」が学習、イノベーション・成長をもたらす』英治出版。
◆所感
心理的安全性の重要性が示された序盤は説得力があった。一方、方法論のフレームワークに関しては納得性に乏しい。
◆
誤った内容こそ書かれてはいないが、一般論としてのリーダーシップ、行動分析、コミニュケーションスキルの紹介にとどまっていると言わざるを得ない。心理的安全性に焦点を当てた記述としては不十分。
◆
【追記】
合理的判断の積算の結果として心理的安全性が低くとどまる職場にとって、本書は必要度が高い。「多少無理してでもやるべきですよ」という主張だ。
つまり普通にはなかなかできないことを、無理してでもやるべき理由を説得することに意味がある。その説得が成功してはじめて、マネジャーは行動を変容させ、結果として職場環境は改善される。
エドモンドソン(2021)は「心理的安全性をつくる事は、大小様々な調整を絶えず繰り返しながら、最終的に前進となるプロセスである。」と述べている。一筋縄ではいかない。
指導と恐れ、気遣いと遠慮、無能力への寛容さ、有能への牽制、尊重と規律などのジレンマを抱えながら、前進していかなくてはならない。