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FESTINA LENTE

【雑談6】別居婚と転職

妻とは就職活動で知り合った。三菱重工インターンシップで隣の席に座ったのがきっかけである。彼女は外国語大学でロシア語を学んでおり、将来は公務員になる予定だった。公務員講座受講のためLEC(資格学校)に通っており、LEC大学に通う僕とは(cf.雑談3)必然的に共通の話題が生まれた。知り合ってしばらくしてから付き合うようになった。

勉強熱心な彼女は模試の成績も良く、複数の政府機関・自治体から内定を得ると思われた。しかし予想に反し彼女は受験したすべての公務員採用試験で不合格だった。結果として、縁もゆかりも学習経験も無いITブラック企業プログラマーとして勤めることになる。不合格を受け、彼女は(残念そうではあったが)淡々と事実を受け入れていた。プログラマーにさほど興味は無さそうだった。

 

 

就職を機に我々は遠距離(僕:静岡、彼女:大阪)になった。そして5年後「遠距離のまま」結婚することにした。いわゆる別居婚である。結婚式はしなかった。義父は「是非とも挙式してほしい」と切望していた。僕はどちらでも良かったが、彼女は「絶対に嫌」と意志が固かった。

彼女は三姉妹の次女なので「結婚式は姉が既にした。妹もやるつもりらしい。だから私はやらなくてもいい」と義父に決定の根拠を示した。ほとんどの事柄にこだわりが無いが、嫌なことはきっぱりと断るのが彼女の特徴である。こうして結婚式というセレモニーを回避し、同居も伴わない形で僕は妻帯者となった。

結婚してから2年後、僕の父が他界した。伴い「遺品の整理」というライフイベントが発生し、京都に帰省する機会が増加した。くわえて就職してから6年が経過しており、仕事に飽きを感じていた。そうした流れで「京都に帰ろう」という気分が高まり、「転職」「帰郷」「妻との同居」を同時選択することにした。

 

 

同居当初、彼女は新卒で入社したブラックIT企業に継続勤務していた。休みと給与は少なかったが、特に不満を感じている様子は無かった。彼女は休日に勉強することを好んでいたし、仕事に飽きている様子もなかった。そんな彼女が突然「仕事を辞めたい」と言い出した。同居してから2年が経過した頃である。

理由を聞いてみると「給与が低すぎる」ことが(今更!)気になったそうだ。その日を境に、彼女はもう少し条件が「まし」な会社への転職活動を開始した。転職エージェント経由で紹介される会社はどこも待遇が微妙だったうえに、面接は不通過だった。

京都本社のメーカーで情報セキュリティの専門職求人が出ているのを偶然見つけたので勧めてみた。応募要項には「5年の実務経験必須」と記載があり、彼女はまったく要件を満たしていなかった。しかし書類選考は「紙を郵送する」という方式で、牧歌的な社風を反映しており「実務経験くらいは無くてもいいんじゃないか」と思わせてくれる感じがあった。彼女は選考を通過し転職の機会を得た。年収はおよそ倍になったので、転職の目的は達成された。

 

 

しかし見る限り、転職で収入が増えても彼女の生活は質素なままである。週末はたいていケンタッキーで資格試験の勉強をし、夜たまに一緒にする外食は鳥貴族かそれに近い居酒屋だ。平日の夜は部屋でストロングゼロを飲みながら小説か漫画を読んで過ごしている。「高い報酬が得たい」というより「能力に見合った報酬が得られていない」という動機の核を解釈できたのは、彼女の転職後である。

別居婚の名残から、僕たちは家計を同一にしていない。「共通口座」に毎月お互いが定額を振り込み、そこから家賃、光熱費、旅行/外食代、共通利用する器具備品等を支出する。共通口座に振り込んだ以外の金銭は別々に管理しており使い道は自由だ。別居婚を基調とした同居スタイルは、夫婦というよりもルームシェアに近いかもしれない。

 

 

結婚は自分に合わなそうなのでしない予定だった。しかしすることになった。ステレオタイプの結婚が向いていなかったとしても、価値観が共有可能であれば問題は生じにくい。その縁も、よく考えてみたら幻のFラン大(LEC大学) によって繋がれたものである。LEC大学は、僕にとって高等教育機関としての役割は少しも果たさなかったが、いい就職先と結婚相手をみつけるのに適していた。もう無いのが残念だが、「それがまたいい」とも思う。