THINK DIFFERENT

FESTINA LENTE

ロバート・B・チャルディーニ(2006)『影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく』SB Creative。

◆概要

【想定読者】

いいカモ、詐欺師などの格好の標的(p.3)

 

【執筆動機】

長年カモにされ続けたがため、人を意のままにコントロールする、という研究に興味を抱いた(p.3)

 

現代生活は、かつてないほど変化が激しく、情報も氾濫しています。(中略)したがって、考える間も与えずに影響を及ぼしていく仕組みと理由、能力を理解することは、社会にとって今後一段と重要になってくるのです。(p.6)

 

【リサーチクエスチョン】

相手に「イエス」と言わせる要因とはなんなのか?どう活用すれば「イエス」と言わせられるのか?ほんの少し、言い方を変えるだけでうまくいくのはどうしてなのか?(p.3)

 

【研究手法】

3年にわたる参与観察(エスノグラフィー)

 

【主張】

概して人間の持つ、機械的に反応するスイッチのもとになっているのは、これまでに学んで見えてきた、心理学的なルールや固定観念です。(中略)こうしたルールを巧みに使えば、相手に絶大な影響をおよぼすことができるのです。(p.22)

 

◆本文抜粋

【習慣の威力】実際、機械的な行動は、誰しもよくやっています。(中略)日々遭遇する人や出来事や状況の全てを事細かに認識し、分析することなどできません。そのために往々にして頼らざるを得ないのが、おおざっぱな固定観念です。(中略)「文明を発展させるには、人間が考えずにできる行動を増やすことである」(pp.18-19)

 

 

〇恩義

【広範な影響】恩義のルールは、お金も商売も介在しない、純粋な人と人との関係にも影響を及ぼす場合が多々あります。(p.46)

 

【強い影響】相手が知らない人や嫌いな人、関係のない人であっても、先に恩を売られてしまうと、こちらがその要求に応える可能性が高くなります。それが恩義のルールの力です。(p.48)

 

【引く恩義】明らかに相手を騙していると思われない限り、こちらが一歩引き下がれば、まず相手も引いてくれます。(p.74)

 

【計略か厚意か】恩義のルールが謳っているのは、厚意には厚意を返すこと。計略に厚意を返すようには求めていないのです。(p.79)

 

 

〇整合性

【考えたく無い】人間は、考えると言う真の労働を避けるためとあらば、どんな手段にもでる(p.91)

 

【他人に自己規定】(略)先々の行動に影響受けるのはもちろん、望んでもいない自己イメージを抱かされかねないのですから。そしていったん自己イメージを変えられてしまったら、その新しいイメージをつけこもうとする相手に、いいように利用されてしまうのかもしれません。(p.109)

 

行動を見れば、自分のことがわかる。つまり行動が、自分の信念や価値観、態度を知る上で、大きな情報源となるのです。(p.111)

 

一旦自らの意思で同意すると、自己イメージは、つじつまを合わせなければと言うプレッシャーを内側からも外側からも目一杯かけられていきます。(p.114)

 

何かを成し遂げるために様々な困難や苦痛を経験してきた人は、同じことを、最小限の努力で成し遂げた人に比べて、成果をより重んじる(p.130)

 

エスを引き出すプロは、相手を内面から変えていく約束が大好きです。(中略)わたしたちは、自らの意思で選んだ約束を補強するために、新たな柱を立てます。だからずる賢い面々は、言葉巧みにそういう約束を選ばせようとするのです。(pp.141-142)

 

 

〇社会的な証拠

社会的な証拠がわざと偽造される場合加えて、そのルールが折りあるごとに、私たちを間違った方向に誘導していく場合もあります。悪意のない自然な間違いが、どんどん社会的な証拠を作り出し、私たちを間違った決断へと追いやっていくのです。このプロセスの1つの例として挙げられるのは、緊急事態を前にしながら、誰1人として適切な対応しない多数の無知の現象です。(pp.229-230)

 

まず私たちは、大勢の人が同じことをするなら、その人たちは、自分たちが知らないことを知っているに違いないと考える傾向にあるようです。不安な場合は特に、大勢の人からなる集団が持つ同じ知識に、絶大な信頼を寄せようとします。次に、そういった集団は非常によく間違いを犯します。集団は、何らかの優れた情報をもとに行動しているわけではなく、社会的な証拠のルールに反応しているに過ぎないからです。(p.231)

memo.集団浅慮、グループシンク

 

社会的な証拠に最も強く影響受ける人と言うのは、ある状況になじみがなかったり不安を覚えている人で、その結果、その状況で最も正しい行為の証拠を自分の外に求めてしまう人なのです。(p.235)

 

 

〇好意

プロたちは絶えず、自分たちは自分たちの製品を私たちの好きなものと結びつけようとしています。(p.270)

 

どんな内容の知らせであれ、それは、古代ペルシャの勅使のせいではありませんでした。(p.282)

 

私たちは、自分の成し遂げたことが認められていると強く自覚しているときには、他者の栄光に乗っかろうとはしません。むしろ、公私で面目が潰れた時、それを回復させる一助として、結びつきのある他者の成功を利用しようと思うのです。(p.286)

 

memo.見た目、似ているところ、お世辞、つながりと協力、条件づけと結びつき

 

 

〇権威

【疑義】この権威者は、本当に専門家なのか?と言う質問に意味があるのです。(p326.)

 

 

〇希少性

デイヴィスは述べています、革命勃発の可能性が最も高いのは、経済及び社会的な状況が改善に向かっていた直後、それが急激に覆される時だと。つまり、長い間最も虐げられ続けてきた人々がことのほか革命を起こしやすい人ではありません。そういう人たちは、自分たちの窮状を自然なものとして受け入れているからです。むしろ最も革命を起こしやすいのは、まっとうな生活を少なくとも多少は経験したことのある人たちだといえます。(p.364)

 

 

〇あとがき

私たちは、根本的にもっと複雑な世の中を築きあげることで、判断能力の不足を自ら招いてしまったのです。(p.392)

 

◆入山(2019)、認知バイアス、意思決定の理論より

人は認知にバイアスを持つ。それが周囲の環境情報ゆがませ、意思決定にバイアスをもたらす。(p.318)

 

ハロー効果とは、人が、製品サービスや他者を評価するときに、その様々な特性、機能についての子細な分析を行わず、その人物、製品サービスのある顕著な特徴だけに基づいた印象を持ってしまい、その印象的に評価するバイアスのことを指す。(p.361)

 

グループ分けと言う認知が脳内にできると、人は自分と同じグループの人に好意的な印象を抱くバイアスがある。これを、イングループバイアスと呼ぶ。(p.365)

 

エスカレーションコミットメントは、主にプロスペクト理論の命題3で説明できる。人は失敗を重ねるほどリスク志向的になり、結果としてさらにリスクの高い投資を行う傾向があるのだ。(pp.383-384)

 

二重過程理論は、(中略)人の脳内では、外部からの刺激に対して、大きく2種類の意思決定の過程が同時に、異なるスピードで起きるメカニズムを明らかにした。それは以下の2つのシステムである。

システム1直感。

システム2論理的思考。(p.387)

 

現状維持バイアスとは人は追加的な利得への効用よりも、追加的な損失への不効用が大きくなる。結果として利得を取りに行く前向きの意思決定より、損失を出さないための現状維持の意思決定を重視しがちになる。(p.389)

 

memo.バイアスとヴァライアンスのジレンマ

不確実性の高い世界では、直感は熟慮に勝る

 

 

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◆参考文献・引用元

Robert B. Cialdini(2006), "Influence: The Psychology of Persuasion, Revised Edition"Harper Business; Revised edition(岩田佳代子 訳(2013)『影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく』SB Creative。)

 

入山章栄(2019)『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社

 

 

 

◆所感

不動産投資、不動産購入(買替含)、FX自動取引、システム投資、ネットワークビジネスなどでは頻出の手法である。しかしどれも特別な行為ではない。日常的に何気なく使っている「人付き合いの手法」の延長線上に伴う行為といえる。本書で例示されている具体例の多くがそれを示している。

 

        ◆

 

著者は参与観察により本書をまとめているが、おそらく書籍には書けないような体験を数多くしていると推察する。場合によっては、著者が法のボーダーラインをギリ超えちゃった可能性もある。そうした後日談があるなら、「もう時効」ということで聞いてみたい。

 

        ◆

 

本書で示された手法は、そのものの興味深さもさることながら多くの新しい興味を与えてくれる。たとえば、集団で合意形成することで誤った決断をしてしまう「集団浅慮」、過去の誤りを是正できない組織行動など、集団心理や組織論、意思決定のメカニズムである。

 

        ◆

 

ところで、「役割」を意識することで自分の中で「一貫性」を形成することは良い面も大きい。かたく言えば「自覚と責任を持つ」ともいえるし、自己啓発的にいえば「なりたい自分になる」「自分にいいレッテルを貼る」でもいい。自己実現をするための手法として、本書を参考に自分の心理をセルフコントロールしてみてもよいかもしれない。