THINK DIFFERENT

FESTINA LENTE

マイケル・サンデル(2021)『実力も運のうち 能力主義は正義か?』早川書房。

◆概要

【想定読者】

エリート層(主に米国)

 

【執筆動機】

勝者と敗者の溝/分断、社会的絆と相互の敬意の崩壊(pp.15-16)

能力主義の弊害(p.48 ,p.328)

 

【主張】

★執筆動機の状況がいかにして生じたのかを説明し、共通善の政治への道を見いだすにはどうすればいいかを考えようとする(p.16)

 

★消費者的共通善ではなく市民的共通善、機会の平等ではなく条件の平等が、「メリット」の専制を超えていくには必要である(p.330)

     ⇒完璧な平等が必要というわけではない。それでも(中略)謙虚さが、われわれを分断する冷酷な成功の倫理から引き返すきっかけとなる。(pp.322-323)

 

◆本文抜粋

【リベラル派の変説】「(リベラル派の不正に対し)彼らは常日頃から万人の平等について語り、誰もが公平なチャンスを手にすべきだと言っていました。」(p.19)

 

【才能の種類】「自分の才能のおかげで成功を収める人びとが、同じように努力していながら、市場がたまたま高く評価してくれる才能に恵まれていない人びとよりも多くの報酬を受けるに値するのはなぜだろうか?」(p.40)

memo.ベースボールとクリケット

 

【勝者のおごり】「勝者は自分たちの成功を”自分自身の能力、自分自身の努力、自分自身の優れた業績への報酬にすぎない”と考え、したがって、自分より成功していない人びとを見下すことだろう。出世できなかった人びとは、責任はすべて自分にあると感じるはずだ。ヤングにとって、能力主義は目指すべき理想ではなく、社会的軋轢を招く原因だった。」(p.48)

 

【努力・国柄】「”人生で成功するために最も重要”な要素は何かという質問には、アメリカ人の圧倒的多数(73%)が努力を第一に挙げている。古くから続くプロテスタントの労働倫理を反映してのことだ。(ドイツではやっと半数、フランスでは4人に1人)」(p.111)

 

【機会の平等】「能力主義社会にとって重要なのは、成功のはしごを上る平等な機会を誰もが手にしていることだ。はしごの踏み板の間隔がどれくらいであるべきかについては、何も言わない。能力主義の理想は不平等の解決ではない。不平等の正当化なのだ。」(p.180)

 

【結果の平等】「能力主義の擁護者の中には、機会の平等に代わりうる唯一の策は結果の平等ではないかと懸念する者もいる。(中略)最高のランナーに鉛のスパイクを履かせてはならない。全速力で走らせる。だが、賞金は彼らだけのものではないことを前もって認めてもらおう。」(pp.190-191)

 

【再配分】「”分配的正義が要求するのは、運のいいものは幸運のおかげで手に入れたものの一部あるいは全部を、運の悪いものに譲るべきだということだ。”」(p.215)(Richard Arneson ,2008 p.80からの引用)

 

森毅(1989,1993)の指摘

【正義と不平等】

「ぼくは”正義”なんてものは、人間が楽しく生きるための手段にすぎない、と考えている。そして”公平”などというのはたかが”正義”の一種にすぎない、と考えている。(中略)”不平等”が自然にあるかぎりは、べつに悪とは思わない。そのユラギの部分を切りすて、ハミダシとするのが悪なのだ。それは、差別である。そしてまた”不平等”が固定するのも悪である。」(森1989 ,pp.65-67)

 

【結果の平等への懸念】

「ぼくは、平等を制度化することは管理主義になるだけだと思っている。公平だの平等だのを制度レベルで言うよりは、もう少しは運のよしあしに賭けたほうがよいと思う。(中略)そして不平等を固定させてはよくない。ときどきシャッフルした方がよい。ぼくは革命を平等化とは考えない。それはシャッフルというだけ、だから永続革命なのだ。」(森1993 ,pp.23-24)

 

【責任/良心と権威/地位の関係】

「一般的に言って、みずからの良心に恥じないよう、責務を果たそうなどと考えると、だいたいよくない。特権の後ろめたさを麻痺させる。(中略)良心なんてのは、地位の後ろめたさを消すものだし、責任なんてのは、権威を維持するために持つものだ。」(森1993 ,p.32-33)

 

 

◆傑出の才能と努力の関係    トマホーク(2022)

「勉強できないだけだったらいいんですけど、集中するのが難しいとか、努力するのが難しいとか」(12m47s-12m53s)

https://youtu.be/fnXgnvUBpBI?t=764

 

才能によるメリット(実力、功績)と努力は別軸

極端な具体例だが示唆を与えてくれる

 

◆参考文献・引用元

Michael J. Sandel(2021) "The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good?"Penguin.(鬼澤忍 訳(2021)『実力も運のうち    能力主義は正義か?』早川書房。)

森毅(1993)『チャランポランのすすめ』ちくま文庫

森毅(1989)『ひとりで渡ればあぶなくない』ちくま文庫

楠木建(2016)『「好き嫌い」と才能』東洋経済新報社

 

YouTube トマホークTomahawk(2022)『映像記憶能力で灘中に余裕合格→京大8留で中退した後、フリーターでその日暮らしの漢(くまもん)【しくじり灘生】』(2022/3/13アクセス)

 

◆所感

★人生「運」に違和感なし

かねてより、紛争地域や貧しい国で「じゅうぶんな機会すら与えられず死んでしまう人」を鑑み、運に感謝する気持ちはあった。

 

★努力不足を感じる他人に対し叱咤ではなく内発的動機付けを促す工夫

才能の問題には限界があるが、モチベーションの問題なら対処可能なことも。「努力できる環境/状況(=才能)を引き出す」発想。

 

★読みにくい、長い

⇒前提となる教養知識不足(政治哲学、宗教知識、米国のノリ)

⇒知識人向けの言い回し?(カッコいいけど読みにくい)

 

★努力してる人ほど、「見返り」を当然と考える/その権利について

⇒とてつもない努力をした人に「あなたの努力も遺伝子や時代、環境(総じて運)のおかげだから社会に還元してね」は実際問題言いにくい。

 

★結局苦痛を伴わない努力が最強/努力の娯楽化(楠木2016)

★知識をつけて再読要(もういいかなとも思う)

 

★構造メモ

・【因】運⇒【果】才能

・【因】才能⇒【果】実力/功績

*環境/時代背景も運

*努力は才能に含まれる(努力は遺伝子)