THINK DIFFERENT

FESTINA LENTE

ポール・ギャリコ『猫語の教科書』ちくま文庫。

◆概要

【執筆動機】

人間の家を乗っ取って、飼い猫になろうと決心(中略)私の話をきいた猫たちはひどく感心して、ぜひそれを書き留めておくようにとすすめてくれました。(p.24)

 

【想定読者】

(なるべく高級な)人間の家を乗っ取りたい猫(p.24)

 

◆本文抜粋

【独身男】独り者の男性には、奇人、変人の類も多いのです。この手の人たちは、穏やかな家庭を営みたい猫にとっては、ふさわしいとはいえません。それに独身男たちは、大体において、猫より犬を好む者です。なぜって、おだててくれる妻がいないものだから、犬に代わりを務めさせたいのね。(p.58)

 

【愚かさ】人間はほんの少しの良いところを覗くと、愚かだし、虚栄心は強いし、強情の上に忘れっぽく、ときにはずるくて不誠実でさえあります。平気で嘘をついたり、表と裏があったり、破ると分かっている約束をしたりもします。わがままで、欲張りで、考えが浅く、所有欲が強いくせに気まぐれで、臆病で、嫉妬ぶかく、無責任で、独りよがりで、橋梁で、忍耐心にかけ、偽善的で、だらしない。(p.157)

 

◆参考文献・引用元

Paul Gallico, (1985) "Silent Miaow" Three Rivers Press(灰島かり訳(1995)『猫語の教科書』ちくま文庫。)

 

◆所感    異なる価値観との同居/理解は時に不要

本書は猫の理解という【具体】を通じて、「本質的には理解できない家族との同居態度」という【抽象】を示していると感じた。傾向はとらえつつ、理解する必要は無い。理解していなくてもお互い楽しく過ごすことが肝要である。以下に自分の奥さんを例示して考えを整理する。

 

 

僕の奥さんはIT技術者である。大学四年生のころ受験したすべての公務員試験で面接落ちし、緊急的に就職活動を行い晴れてブラック企業のSEとなった。休みと給与は少なかったが、特に不満を感じている様子はなく、職場で推奨されている資格試験をいくつか取得しながら仕事に慣れていっているように見受けられた。そんな彼女が突然「仕事を辞めたい」と言い出した。就職してから7年、結婚してから3年が経過した頃である。

 

理由を聞いてみると「いくらなんでも給与が低すぎる」ことが今更気になったとのこと。僕としては7年間も勤めた末の退職理由としてはいささかインパクトに欠けると感じざるを得なかったが、特段止める理由も無かったので「そうか」とか「なるほど」などと相槌をうった。(たしか、鳥貴族かそれに近い居酒屋で聞いた気がする)

 

その日を境に、彼女はもう少し条件が「まし」な会社への転職活動を開始し、拍子抜けするほどあっさりと内定を得ることに成功する。年収はおよそ倍で、有給消化率がとても高い会社だ。それがおよそ5年前の話である。しかし彼女はその後、有給をほとんど取得せず、生活は質素なまま今に至る。週末はたいていケンタッキーかマクドナルドで資格試験の勉強をし、夜たまに一緒にする外食は未だに鳥貴族かそれに近い居酒屋だったりする。

 

平日の夜は部屋でストロングゼロを飲みながら小説か漫画を読んで過ごしており、時々「週に5日は働きすぎ」と漏らす。そのわりに有給は使わない。出世欲は無い。週末の資格試験の勉強はたんたんと継続しており、高度情報処理技術者試験の9区分のうち6つをパスしている。ただし、これらの資格は仕事に直接関係がない。転職活動で有利にもならない。つまり、取得する理由が客観的には見当たらない。

 

以上のように、彼女の行動には僕の論理に適合しやすい原理原則が無い。そのことについてはずっと気になっているし、何度か質問をしたが説明を聞いてもよくわからなかった。ストイックにも自堕落にも、退屈にも充実にも見ることができるライフスタイルだが、一様に楽しそうである。

 

結局、異なる価値観は(奥さんですら)よく理解できない。理解できないものは、そのままにしておいてよい。理解しようとして疲れたり、理解したつもりになることは、たぶん奥さんも(そして猫も)望んではいない。本書を通じて以上を再認識した。