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FESTINA LENTE

サン・テグジュペリ(1943)『星の王子様』。

◆本文抜粋

【恥と酒】「何を恥じているの?」救ってあげたいと思って、王子様はたずねた。「飲むことを恥じている!」酒びたりの男はそう言うと、沈黙の中に、完全に閉じこもった。(p.64)

 

【難しい仕事】「管理する。数を数え、また数え直す」と実業家。「難しい仕事だ。でも私は、有能な人間だからな!」(p.69)

 

【美しさ】「星々が美しいのは、ここからは見えない花が、どこかで一輪咲いているからだね……」(p.115)「砂漠が美しいのは」王子様が言った。「どこかに井戸を、一つ隠しているからだね……」(p.116)

 

◆所感    専門職の悲哀/酒と恥と自信

世の中には、意義の有無が明確でないが、「とにかく複雑」というタイプの仕事がある。仕事の複雑さ、使用している知識の難解さは、人の感覚を麻痺させることもある。本書に出てくる実業家はその特徴をよく示している。「専門的な知識を使って難しい仕事をしている。毎日とても忙しい。だから僕は有能ですごいんだ。」という自信にあふれる姿である。

 

一方、現実はこれに比べて麻痺の度合いが少ないことも珍しくない。「自分は専門的な知識を使って仕事をしているけど、意義はそれほど無いと薄々感じている。でもそんなことを考えても仕方ないし、生活もあるし、お金も必要、、。それに、”下”を見れば知識を使わない仕事をしている人もいる。それに比べたら自分はずいぶん”まし”だ。めったに無いけど感謝されることもある。さて明日も頑張ろう。」こんな感じではないか。

 

専門職に従事している人の中には、こうした悲哀を胸にそっとしまいながら日常に折り合いをつける人もいる。いっそ、自分を騙して「ガハハ系おじさん」にジョブチェンジ出来たらどんなに楽だろうと思うこともあるが、「それはやはり嫌だな」と思いとどまったりもする。そこについて、あまり思い詰めてしまうと、待っているのは「酒びたりの日々」かもしれない。

 

おそらく、自信過剰な実業家はいくらか「恥」を感じることが必要で、一方、恥のあまり酒びたりの人は適度な「自信」を持つとよい。でも、それが難しい。そうは出来なくなる過程が「大人になる」ということにほかならないためだ。本書の真価のひとつは、そうした「理解はできるが、変容しがたいものの尊さ」を率直に示していることと思われる。大人になってしまったことは仕方ないとして、心のどこかに「花」もしくは「井戸」をしのばせておきたいと思った。

 

 

「星々が美しいのは、ここからは見えない花が、どこかで一輪咲いているからだね……」(p.115)「砂漠が美しいのは」王子様が言った。「どこかに井戸を、一つ隠しているからだね……」(p.116)

 

◆参考文献

サン・テグジュペリ(1943)『星の王子様』新潮文庫。(河野万里子 訳)